食の安全は売り渡される?
はじめに
ネット上で話題となっていたので、購入して読んでみた。かなり、気分が悪い。意図的な情報隠しや、知見不足が感じられて、不快であった。
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前提条件として、はっきりさせておく。農薬や遺伝子組み換えなどの安全性は重要である。しかし、自国でのイノベーションを否定して、やたらと海外からの不安をあおるだけの内容はいかがなものか。受け身で守ることばかり考えていて、世界に打って出ようという意気込みが、どこにも感じられないのである。国際競争での敗者を自認し、貧困に甘んじようというのが、基本スタンスなのだ。
私自身、いろいろな作物を、タネをまいて育てた経験を持っている。病害虫の防除や雑草取りが大変なことは、自分自身で経験している。また、F1品種の圧倒的な品質も、よく理解しているつもりだ。遺伝子資源として、多様な在来品種を維持することは、交配親を確保する意味でも重要である。
F1品種とは
注釈:F1品種とは、交配した雑種の一代目を利用する品種のこと。遺伝子組み換えやゲノム編集とは直接関係ないので、誤解しないでいただきたい。F1から取れた種をまいても、(F2)親と同じ性質の作物が出来ないので、種をまいて育てる方法においては、コピーできない作物ということになる。理解できない場合は、中学校あたりで習った、「メンデルの遺伝法則」を復習していただきたい。
犬にたとえれば、秋田犬と柴犬を掛け合わせて雑種ができるのと同じで、珍しいことでも、怖いことでもない。血統書付きの名犬は、近親交配を重ねているので弱いが、雑種の犬は、個体差はあるものの、平均すれば、圧倒的に丈夫で、病気にかかりにくい。それと同じことを農作物でやるだけの話である。
それだけの話なのだが、遺伝子組み換えやゲノム編集と絡めて、F1品種に誤った認識を植え付け、導入を阻止しようという悪意すら感じさせられる。特に、コメの場合、F1品種導入で、単位面積あたりの収量が劇的に増える。補助金が不要になるので、既得権益を手放したくない勢力が、あの手この手で妨害をするというのは、容易に想像できることだ。
F1種子輸入に関する嘘
!!重要な事実を隠した表現!!
嘘つき著者に騙されてはいけない!
引用:「日本の農家が購入しているF1品種のほとんどが、海外で生産された輸入品だ」
それは事実だろう。しかし、サカタやタキイといった、日本の種苗メーカーが開発し、海外で生産して輸入している種子もたくさん含まれている。なぜ、その点を隠さなければならないのか。輸入F1種子が、すべて海外メーカーの生産したものであるかのような記述になっている。事実を隠蔽しており、こういう書き方をすると、この書籍全体が胡散臭くなる。
あえて、古典的なF1品種を紹介しておいた。
資源のない日本が、食べて行くには、知的財産戦略が欠かせないのであって、それを無視する姿勢には賛同できない。旧態依然とした品種開発では、海外に打って出ることが出来ない。海外での種苗登録(工業分野での特許に相当)のノウハウがなく、イチゴやブドウなどの有望品種が流出してしまったのは、周知の事実。海外からの流入を恐れるのではなく、自国で新品種を開発して、海外に打って出るのが、日本の生きる道であろう。権利さえ自国で持っていれば、どこで生産・販売しても収益は得られる。
【参考資料】農林水産省 消費・安全局消費者行政・食育課「消費者の部屋」
種には、なぜ外国産のものが多いのですか。
https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0906/01.html
⬆️小学生にもわかりやすく説明されている。著者の嘘が誰でも理解できるだろう。
イチゴの種子価格比較に関する嘘
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※余談
日本でイチゴ狩りに行くと、株の勢いが良くて、明らかにメリクロン由来の苗だな、と思うのですが、海外の画像サイトを見ると、株の勢いがなくて小さく、ランナーによる自家増殖を繰り返しているんだろうな、と違いがよくわかります。
昭和30年代以前のイチゴと、最新の栽培品種を物価水準も考慮せずに比較しており、無意味。種子から栽培するイチゴのメリットがどこにあるのか、理解できていない。
引用:「かつてはイチゴの種子も一粒2円ほどで購入できましたが、いまではほとんどがF1品種の種子となり、一粒が40円から50円になってしまいました。」
との引用があるが、いったい、何の比較をしているのか?私自身、実生系の固定種を栽培した経験はある。基本、鉢植えとしての観賞用だが、食べることもできる品種として。種をまいて育てる固定種のイチゴは、「趣味の園芸」の世界。イチゴの実を収穫して出荷する商業栽培には、ほぼ使われていない。
50年以上前の「宝交早生」の時代から変わらず、イチゴはランナー(つる)の先に子株が出来て増えるので、主体は栄養繁殖である。これの問題点は、ウイルス感染。害虫のアブラムシが飛来して、ウイルスを運んでくる。一度感染すると、農薬等では除去できないので、子株、孫株へとウイルスが受け継がれ、だんだん収量が落ちてくる。
ウイルスを除去するには、高価な蘭の繁殖にも使われているメリクロン(茎頂培養)を使う。植物の生長点は、細胞分裂が活発で、ウイルスが侵入できていないため、そこを顕微鏡下で切り出して、培地に植えて培養し、苗を作る。技術も手間も必要で、コストがかかる。実用的には、メリクロンで作った元の苗を、何年かかけてランナーで増やして供給するのだが、増やす段階で、ごく小さな虫であるアブラムシの侵入を完全に防ぐことは難しく、ウイルス感染は起きうる。
タネをまいて栽培するF1品種では、種子にはウイルスが侵入しにくいというメリットがある。したがって、F1品種とコスト比較する対象は、茎頂培養直後のメリクロン苗である。商業栽培に利用できる、タネから育てる固定種のイチゴは存在しない。比較できない。まるで論理構築が出来ていない。余分な引用を書くことによって、この書籍全体の信頼性が下がる。話にならない。
種子繁殖型イチゴの情報は、「種子繁殖型イチゴ研究会」のページに書かれている。この本に書かれていることが、間違っていることが確認できるはずだ。強引なこじつけである。
https://seedstrawberry.com/index.html
コメのF1品種に関する情報隠し
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中国の存在を抜きにして、この問題は語れない。
なぜ、中国の状況を書かないのか?
要約引用:コメのF1品種開発元として、モンサント、三井化学、豊田通商をあげている。
何だこれ?と思った。コメのF1品種で圧倒的な力を持っているのは中国である。その点を隠していたら、本で書いている内容全体の信頼性に疑問符がつく。
まずは、中国に追いつけるよう、日本で開発することを考える。国や地方公共団体が主体なのか、民間なのか、コラボなのか。それは検討課題ではある。公共事業としての育種環境に、海外での種苗登録のノウハウがないのだから、大なり小なり、民間の力を借りざるを得まい。
もし、当面開発が間に合わないのであれば、中国から導入という選択肢も持てば良い。価格競争する環境を作って、調達価格を下げれば良いだけのこと。そうすれば、多国籍企業に独占されるというような、被害妄想を抱くこともなかろう。
中国では、長粒種と短粒種の両方が栽培されているので、単純に日本とは比較できないが、単位面積あたりの収穫量がコシヒカリの2倍以上となると、恐ろしくて触れたくないということかもしれない。F1品種でコンバインが壊れたとか書かれているが、そうならないような技術開発をすればいいだけのことである。中国ではすでに実用化されており、多肥栽培を継続することによる土壌劣化の対策についても、知見がある。どこまで、日本を後進国にしたいのか?イノベーションを否定してはいけない。
パンジーの花付き苗が秋から売られる理由
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頻発する異常気象に、固定種に固執して乗り切れるのか?
F1の大きな特長の雑種強勢。同じ系統の固定種に比べて、暑さや寒さに対する抵抗力が強い可能性が高い。極端な夏の猛暑や冬の大寒波に襲われた時に、最悪の事態を避ける手段の一つにはなり得る。
パンジーという花は、本来、関東~関西を基準にすると、秋の9月頃に種をまいて、春の3月頃から咲き始めるものである。しかし、今では、秋の早い時期から、花の付いた苗が店頭に並ぶ。開花がほぼ半年前倒しされ、翌年春の終わりまで咲き続ける。花を楽しめる期間が、格段に長くなった。このような栽培方法に変わったのは、F1品種が登場し、苦手な暑さに耐え、丈夫で早く育つようになったからである。元来丈夫だったビオラ(小輪パンジー)の固定種とともに、夏蒔き栽培が始まった。
そういった経緯も知った上で、F1品種はタネが高価だ、自家採種が出来ないから毎年タネを買わされる、という主張に同意しますか?
品質が高ければ、価格が高くても、コスパが悪いとは言わない。毎年交配して採種するので、手間がかかる。しかし、そこには雇用が生まれる。土地の確保や生産コストを考えると、大量生産の段階になれば、海外でということになるのは、やむを得まい。採種農場では、他品種の花粉が飛んできて混ざることは許されないので、十分な距離をとって、隔離しなければならない。狭い日本の国土では難しい。そういう経緯で、F1品種の種子が輸入されているのである。実態を隠して、問題をすり替えている本書に騙されてはいけない。
高価なオーガニック、それを買える所得がありますか?
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毎月、100ドルをオーガニック食材に支出しましょう、と。
高価なオーガニックを勧められて、それを購入出来る所得がありますか?
非正規ばかりが増えてしまった今の日本で、バブル期みたいな主張をしたら、「そんな金がどこにあるんだ」とTwitter民にたたかれるのが関の山。高価なオーガニックを買えというのなら、それが買えるだけの所得が得られる成長戦略を示せと言うことだ。子供の安全のために、オーガニックの給食だ、と。所得が低下して、結婚や出産を考えることすらできない層が増えているのである。お金持ちのお遊びみたいなことをいっている場合じゃない。顔を洗って、出直してこい!
オーガニックの普及が目的なら、個人の自由であるから、お金持ちの道楽として、地道に活動すれば良いこと。超格差社会になった現在、政治の世界に持ち込むと、格差を是認して、法の下の平等、基本的人権の問題にもなりかねない。
年金生活者が多い高齢化社会において、持ち家を処分しない限り、生活保護は受けられないから、健康で文化的な最低限度の生活を送れていない人がたくさんいる。もっと、そういう人たちにも寄り添ってあげなければならない。
劣化しきった自民党は、ゴミ箱(完全消去付き)行きだが、民主党もこういうレベルだったんだな、と考えると、全部、ぶっ潰すしかない。格差が拡がっていることを認識せず、時代錯誤な主張をしているから、分断を招いて、N国みたいな人たちが、政治の世界に出てくるのである。基本的人権の擁護、社会正義の実現は、弁護士の使命である。 社会秩序の維持と法律制度の改善は、努力目標である。よくかみしめたい。
ネトウヨからサヨクと認定される人たちは、格差の是正には、企業から税金を取って、庶民に還元すればいいと言う。しかし、国全体から見れば、お金は増えていない。税負担を嫌って、投資の引き上げや海外移転が進み、結果としてマイナスになる。法人税を払うくらいなら、従業員の給料や福利厚生、株主への配当に使うという考え方だってある。法人税が個人の所得税に変わるだけで、別に悪いことではない。設備投資の減価償却という、税金の先取りシステムがあるのだから、設備投資すると、手元にお金はないけれど、税金は払わなければならない状況になる。増税が製造業を弱体化させる。(あえて、だれでも理解できる平易な表現とした)
やるべきことは、絶え間なくイノベーションを起こして、付加価値を上げ続けること。成長力を維持して、中間層を厚くすることにつきる。それしかない。それを怠れば、競争に敗れ、あっという間に転落していく。それが今の日本だ。
あるべき知的財産戦略
知的財産のメインは特許であり、種苗登録(旧植物特許)も含まれる。もちろん、著作権も知的財産であり、映画やアニメ、音楽などの振興は良いことだが、著作権だけでは、日本全体が食べていけない。歴代自民党政権が、特許や種苗登録を無視し、知的財産は著作権だけ、という政策をとったことによって、日本は技術的に後進国になってしまった。貧富の格差や少子化の問題も、元をたどれば、バカげた知的財産戦略の結果である。
食の安全や法律の問題点を検証していくことは、大切である。しかし、在来の技術や体制に固執して、イノベーションを否定し続けていたら、日本は後進国になっていく。さらに貧困化し、負のスパイラルに陥っていくだけのことである。
F1品種は、自分で種を取って、翌年に使うことが出来ない。自家採種では、同じ品質の作物が出来ない。毎年タネを買わなければならないが、著作権に当てはめて考えれば、これは、コピープロテクト(コピーガード)である。日本で開発した有望な品種が、海外で無断でコピー栽培される可能性が低いということであり、権利保護という点から、決して悪いことではない。新品種開発を怠れば、海外企業に独占されるというリスクがあるが、戦略的な新品種開発をしていけば、世界に打って出るチャンスがでもある。
国産小麦のおいしさ
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私の場合、自分で食べるパンは、80%くらい自家製造である。国産小麦の味を知ってから、輸入小麦は使わなくなった。国産小麦が評価されるようになったのは、「はるゆたか」という品種が登場したあたりから。その後、「春よ恋」「ゆめちから」「きたのかおり」など、おいしい品種が複数出てきた。しかし、国産小麦粉の入手は、通販か、専門店の店頭で、ということになる。生産量が足りていないからだ。イオンなどの店頭で、「ゆめちから」などの一部品種が並ぶことはあるが、専門店に比べて恐ろしく割高で、とても手が出ない。どこのスーパーでも手軽に買えるようになって欲しいものだ。
輸入小麦は、船便で運ばれてくるため、その間に虫食いにならないよう、また、日本にいない害虫が持ち込まれないよう、対策しなければならない。あらかじめ対策してあるので、製粉した後の流通段階で、扱いやすい。国産小麦は、防疫がなく(保管のための燻蒸はあるようだが)、水分含有量も多いので、流通段階では、扱いにくい。それが味の違いの一要素でもある。味を決めるのは、品種の特性だけではない。補助金が1kgあたり150円くらい投入されているから、本来は、かなり高価なものということになる。
本書に、輸入小麦やそれを使ったパンから、グリホサートが検出されたと書かれている。国産小麦からは、検出されていない。じゃあ、どうすればいいのか?その処方箋が、本書にないのである。オーガニック、有機栽培といっても、意識高い系の高所得者層だけが買える世界。結果的に、不安をあおっているだけだ。
やるべきことは、明らかではないか。コメのF1化を進めて、単位面積あたりの収穫量を上げ、総収穫量を維持したまま、米の栽培面積と補助金を縮小、小麦の栽培面積と補助金を増やせばよい。それだけのことなのだが、コメのF1化を徹底排除している時点で、論理的に袋小路である。食糧自給率についても、危険性を指摘しつつも、処方箋が示されていない。大豆やトウモロコシは、飼料用が主体であるから、優先順位を下げざるをえないが、人間が直接食べる小麦については、優先的に自給率と安全性を確保しなければならない。
政治家や医師、弁護士といった職業には、パーソナリティ障害が多い。通常はB群だが、この場合は、C群であろう。パーソナリティ障害の症状として、 自閉症スペクトラムと重なる部分がよく見られる。緻密な論理構築が苦手なのである。因果関係、比較類推の演算回路が搭載されておらず、統計だけで論理構築しようとして、論理破綻する。オーガニックに対する強いこだわり。格差拡大という時代の空気が読めない。農薬や抗生物質が発達障害の原因かもしれないという、とんでもない仮説を紹介しておられるので、あえて申し上げることはない。
経験を語れ
酪農で失敗したという経歴は書かれていたが、それ以外に、何も経験談が書かれていない。自分で栽培したとか、料理をしたとか、パンを作ったとか、何も経験が無いのであろう。政治家として視察したとか、農家に話を聞いたとか、それだけでは、ほんの一部分しか知らないことになる。「食」を語るのであれば、自分で農作物を栽培した経験、料理を作った経験をもとに語っていただきたいものだ。下手な政治家より、TOKIOか相葉君の方がよほど語れるのではなかろうか。
6次産業化と雇用創出、農協、守りか攻めか
農業の6次産業化が叫ばれ、すでに、いろいろな形で異業種連携が進んでいる。この期に及んで、固定種の種子を国が作り、専業農家が栽培するモデルが続くと考えているのか。食管制度へ逆戻りするのか。企業が種子を供給する場合でも、どの品種を買うかは、農家が選択するのである。コスパが悪ければ買わないし、固定種のばらつきが多ければ、次からは買ってもらえない。ちゃんと競争原理が働くようにしておけば良いだけのことである。独占禁止法や不正競争防止法を、農業分野でもしっかり機能させればよい。
大都市に住んでいるし、農家でもないが、農協で預金口座と共済の取引はある。自動車共済の更新で、窓口で手続きしたのに、印鑑の捺印を忘れたとか、車検証のコピーを忘れたとか、3回くらい電話がかかってきて、何度も出向かされた。それが数年続いて、もう、行けないから、営業の人に家まで来てくれ、ということになった。弛みすぎである。都市部の農協は、信用事業だけだが、一応、店頭に農薬や肥料の価格表がある。価格は園芸センター・ホームセンターの1.5倍以上。誰が買うのかしら?
この本の著者は、企業に勤めた経験が無いのであろう。従業員を雇って、給料を払うのが企業である。働き口がなければ、国民は食べていけないのだから、雇用を創らなければならない。企業は敵だ、というような偏った政治家がいたら、世の中のサラリーマンは、どうやって生活していくのだろう。時代感覚が、労働組合のストライキが頻発していた時代のままである。「左翼」とは呼んでもらえず、「サヨク」「パヨク」として「ネトウヨ」と同列に語られる所以である。どちらも、物事を多面的に捉えて考える能力に欠けていて、論理破綻が多く、問題解決のスキルがないという点で、共通の病理がある。
世の中には、性格の悪い企業もある。恐れるあまり、守ることばかり考えていたら、相手の思うつぼである。萎縮しているうちに、相手は次の手を打ってくる。うまく渡り合って、こちらも攻めていかなければいけない。
気候変動と農業の未来
明らかに、気候変動が大きくなってきている。固定種をちまちまと改良していっても、追いつかない可能性も高い。当面の安全策として、F1の雑種強勢を使いたい。さらなる気候変動を考えれば、暑さや寒さに耐えられるよう、遺伝子組み換えやゲノム編集も研究だけはしておく必要があろう。栽培可能な作物がなくなり、食べるものが無くなってしまっては生きて行けないのだから。
心理分析的に書くと、日本では、C群クラスタのパーソナリティ障害が多い。誰かに頼りたい、不安だ、というような人が多いので、不安をあおれば、関心を集めやすい。占いや宗教と同じだ。そう考えれば、本書は宗教本ともいえる。
高齢化で瀕死状態の農業である。農業分野で雇用を創出しなければ、現状維持も出来ない切羽詰まった状況だ。この著者の主張のように、「株式会社は農業から利益を吸い上げていくから敵だ」といっていたら、誰が農業を担うのか?。論理破綻しているのではないか。逆もまた真なりで、「公共事業は、税金を食い物にするから敵だ」とも言えるのである。補助金や所得保障に頼らなければ採算が合わないような状態で、新規の就農が期待できると考えているのか?
食料自給率と品種改良
かつての米余り時代、収穫量を増やす品種改良は御法度だった。本来、品種改良は、「美味しいこと、作りやすいこと、たくさんとれること」が求められる。日本は、「たくさんとれること」を封印してきた。一方、中国は大幅な人口増加があり、積極的に収穫量を増やす改良を進めてきた。これによって、周回遅れ以上の差が付いてしまったのである。
日本においては、米・麦・大豆といった主要作物は、補助金によって成り立っている。品種改良によって単位面積あたりの収穫量が大幅に増えれば、補助金が要らなくなる可能性がある。読者を欺いてまで、F1品種を徹底的に排除しようとする姿勢は、補助金を減らされたくない支持層がいるのであろうと考えざるを得ない。そうでないとすれば、農作物は、我々が食べるために神が創造してくださったものだから、改良だ交配だといっていじり倒さずに、神に感謝してそのまま使えと言うことか。
食糧自給率についていうなら、荒っぽい計算だが、F1品種のコメで、単位面積あたりの収穫量が2倍になれば、水田の面積は半分あればいい。余った農地で、他の作物なり、輸出用や飼料用のコメなりを作れば、確実に食糧自給率は上がる。食の安全保障である。本書では、それを徹底的に否定している。「食の安全」に逆行しているのではないか。
F1種子に除草剤耐性遺伝子を組み込んで、除草剤とセットで売るビジネスモデルは、雑草の除草剤耐性獲得スピードが速く、事実上破綻している。本書でそう書いておきながら、なぜ、恐れなければならないのか。理解に苦しむ論理構成である。
大手流通業者の力が強い現在である。ダイエーが自社で品質検査センターを持っていた時代もあったし、事故米や産地偽装、ビーフカツで学んだことも多い。流通業界が安全弁を担う下地は、十分にある。食の安全は、消費者やそれに近い流通業者が中心になって考えるべきであろう。補助金でズブズブの農業系団体からは一定の距離を置いた方が良かろう。本書のゆがみ具合をみて、痛感した。
食の安全とは、本当の意味で何なのか
「食の安全」を真っ当な主張としてまとめるなら、日本の成長戦略として、農業をどう位置づけるのか。さらなる大きな気候変動に見舞われた時に、どうやって食料を確保するのか。「国民を二度と飢えさせない」心構えがあるのなら、 そこまで語らなければならない。 本書にそれはない。
総じて、後ろ向きな内容の本であった。あまりにも論理破綻や嘘・情報隠しが多く、不安をあおり、イノベーションや企業の農業進出を徹底的に否定する。世界に打って出ようという意気込みはどこにもない。裏を返せば、既得権益である補助金を手放したくないから、単位面積当たりの収穫量が多い品種を開発してくれるな、ということであろう。多面的な思考能力に欠け、問題解決の道筋を示さない。ロジカルシンキングの出来ない人が本を書くとこうなる、という見本だ。